Fu-Ko-Q Present

arataxia〜風の紅き丘の上〜

Live 2

「………………………」

 思わず体を少し起し、そっぽを向いて不貞腐れる彼の顔をじっと見つめる。そんな彼の表情は、照れて嫌がっているというより、本当に困っていまっている少年のようで、マリューはその言葉が真実なのだと気付かされてしまった。

「なんだよ」

 マリューの視線に気付いたのか、不機嫌そうな彼の視線がこちらを向く。

「えっ、いや、えっと…………………そういう、ものなの?」
「………そういうものなの」

 彼が帰って来てから少なくない時間が流れていたし、地球軍の軍服でアークエンジェルに乗っていた頃から彼との肉体関係はあった。それでも、まだまだ彼の全てを知ったわけじゃないのだと、マリューは思い知らされる。

「俺はやっぱり、マリューのかわいい声聞きながらってのが一番好きだけどね」
「ん、あ……ッ!?」

 そんなことに想いを巡らせていた隙をつかれたのだろう。いつの間に外されていた自分のシャツの隙間からムウの手が滑り込んできた。

「アッ! だ、だめっ」

 そのままの流れでブラのフロントホックまで外され、思わず体を離そうとしたマリューの頭をムウが抱き寄せる。

「ほら、手が止まったままだと、いつもと変わらなくなるぞ」

 お返しとばかりに耳元で囁かれたムウの声だけで、マリューは自分の下腹部が切なく締め付けられるのを感じた。

「や、ぁ……ッ」

 強い快感を覚えた時に反射的に出てしまう拒絶の言葉。でもそれに応えることなく乳房を包み込んだ彼の大きな手の平を、期待していた自分も確かに存在しているのをマリューはよく知っている。

「ん………ンぅっ!」

 乳房を揉みしだかれながら腰の辺りを撫でられてしまうと、いつも与えてくれる快感を思い出してたまらなくなる。このままでは、彼の言う通り本当にいつもと変わらない。
 マリューは気力を絞って何とか自分の躰を下にずらすと、眼下で固くなっていたムウの乳首を唾液を染み込ませるように舐め上げた。

「ッ!」

 ムウが呻き声に近い嬌声を上げる。彼は、男のそんな声は萎えるなんて言ったけれど、マリューにしてみればそれこそ間違いだ。ただでさえ色気のある彼の声が、快感を耐えるように絞り出される。それは、どんな遊女の喘ぎ声よりも色っぽく感じられるのだ。
 彼と同じように剥き出しになったマリューの肌は、彼の体温をダイレクトに伝えてくる。そして手の平に感じる彼の鼓動。
 マリューは、一つの衝動に突き動かされていた。

 ────彼を、感じさせたい。

 今自分達は生きていて、罪も後悔も幸せも快楽も、全てのことを感じることが許されているのだ。それは、死者には許されない生きているからこその権利。そのことを、彼に思い知らせたい。

「ん………ちゅっ」

 彼の胸に、傷に、わき腹に、お臍に、マリューはキスの雨を降らせてながら下りていく。彼の中心、すでにズボンの中できつそうに張り詰めている一番敏感な部分を目指して。
 マリューはムウの臍の辺りを執拗に舐めながら、ゆっくりと彼のジッパーを下ろしていった。むぁっと、男の蒸れた香りがマリューの鼻をくすぐる。それは決して不快なものでなく、彼が感じてくれていた証。
 興奮で震える手を理性でコントロールしながら、マリューはムウのズボンを脱がしていく。硬い素材のズボンを脱がし、彼の中心を見つめると、そこに空間を作ってしまうほど彼の肉棒は反り返っているようだった。

「──────」

 思わずムウの方へ視線を送る。躊躇があるわけではなかったが、あと一歩を踏み出すために彼の後押しが欲しかったのかもしれない。そんなマリューの気持ちを知ってか知らずか、ムウは先を促がすような視線をマリューに向けていた。
 それを合図に、マリューは彼のズボンを引き抜き、トランクスに手を掛ける。察したムウが腰を上げてくれるのに合わせてトランクスを引き摺り下ろすと、戒めを解かれ。自由になった彼の肉棒が姿を現した。

「すごい……もう、こんなに………」

 その有様に驚愕する。感じてくれることは彼の反応で判っていたつもりだったが、こうしてそれを表しているモノを目の前にすると、何となく気恥ずかしい。
 恐る恐る手を伸ばしそっと触れると、彼の肉棒はそれだけでヒクンと反応を示す。それに細い指を絡ませ先端を口に含もうと近づくと、近づいた彼女の吐息でまたピクンと跳ねてくれる。ムウがいつも、感じ過ぎる自分を『かわいい』と言ってくれる理由がなんとなく判った。

「マリュー、俺────っ、くッ」

 余りにも焦らしすぎてしまったのだろうか、何か言いかけたムウの先端をぱくりと口内へ導いた。

「くぁ……っ、う、ぁ」

 唾液をたっぷりと先端に絡め、唇と肉棒の隙間から溢れ出るほどに彼を濡らしてやる。先端から滲み出していた彼の体液の香りが、彼女の理性を溶かしていくのを感じながら、マリューはゆっくりと頭を上下し始めた。
 それに合わせて肉棒を握った右手を上下させれば、我慢出来ずに溢れてくる体液と自分の唾液とがじゅぶじゅぶと音を立てて混じ合っていく。彼の肉棒をどろどろにしてもまだ口内に溢れるお互いの体液を、マリューは時折ゴクリと飲み込んだ。

「ふ、ぅ、ムウ…………すご、ふぁ」
「マリュ………ダメ、だ。そん……なっ」
、い? ーの?」

 口の中に彼を含んだまま、彼女がいつも訊かれていることを彼に訊いてみた。
 上目遣いで彼を見上げると、快感に眉を寄せ、興奮に碧眼を揺らしながら熱い吐息を吐くムウがいた。
 ゾクリ、とマリューの背中を何かが駆け上がっていく。もっと感じさせたい。もっと、自分の手で彼を乱れさせたい。
 自分が過去に囚われそうになった時、彼を失った時を思い出して不安になった時、彼の温もりに何度救われたか判らない。それを、自分も彼に与えられたら───

「─────ッ!」

 ムウが苦しそうに呻きながら天上を仰いだ。それは、口内からちゅぷんと肉棒を吐き出し、豊かな乳房でそれを包み込んだ瞬間だった。
 軍にいた頃は、コレの所為で苦労したこともあった。でもこうするとムウが悦ぶことを教え込まれていたマリューは、自分の思いつく限りのことをして彼に自分の気持ちを伝えたかったのかもしれない。
 マリューは乳房の両側に手の平を当てると、彼の肉棒をしっかりと包み込んだまま躰を上下し始めた。彼女の唾液と彼の体液でべとべとになっていたムウの肉棒は、マリューの滑らかな肌に絡んでつるつると乳房の中で遊んでいる。

「ムウ、こういうのも好きだったわよね…………」

 彼女の顎の舌に見え隠れする先端に、マリューはべろりと舌を這わせる。

「………あぁ、そうだ、けどッ」

 いつも余裕たっぷりのムウの声が切羽詰っているのを聴いて、マリューの気持ちは更に昂ぶった。
 器用に乳房を上下させながら、ちゅっちゅと音を立てて先端を吸い上げる。

「もっと、感じて────」

 そんな風に、うわ言みたいに呟いている自分がいた。
 自分を感じて欲しい。生きてさえいれば、罪すらも償っていける。だから、生きていることをもっと感じて欲しい。

「っ、ぁ………マリュー、俺、もぅッ」

 ムウの表情かおが歪む。彼に限界が近いのを感じ、マリューは彼を包む乳房をより密着させ、口内の先端には激しく舌を這わせた。

「んっ、んんっ」
「─────っ、くッ!」

 ね、イって────言葉にならなかった声は彼に届いたのだろうか。急に体を起しマリューの頭を抑え付けると、ムウは彼女の口内に全てを放っていた。

「んんんんッ!!」

 逃げ場を失ったマリューの口内に勢い良く彼の昂ぶりが注ぎ込まれる。それがあまりにも大量だったため、マリューは反射的に唇を開き、その苦しさから解放された。

「んくっ、は────ぁッ、は、げほげほッ! はぁ、は…………ぁッ」

 口内に残っていた精液を飲み干すと、粘性の強いそれは渇いていた喉に絡みつく。咳き込んでそれをやり過ごすと、心配そうに自分を見つめるムウと目が合った。

「大丈夫、か?」

 酸欠で回らない頭に一つの疑問が浮かび上がる………何を言っているのだろう、この男性ヒトは。

「それはこっちの台詞だわ。
 貴方はもう………大丈夫なの?」
「─────」

 ほら、またそうやって目を逸らしてしまう。
 彼のして来たことを思えば、『もう忘れてしまえ』などという無責任な台詞は彼女には言えない。でも、自分で納得できないまま快楽の渦に飲まれた自分まで、そんなにも責めないで欲しいと思うのに。

「ムウ」

 こっちを見て欲しくて、マリューは彼の名を呼んだ。しかし、視線は戻らない。そんな彼に、マリューは優しく語りかけた。

「ムウ。ねぇ貴方は、私が何かから逃げたくて、貴方に抱かれたことが無いとでも思っているの?」
「っ!」

 でもそれは逃げじゃないと、彼は言い続けてくれた。人に向けられるその優しさを、彼はもっと自分に向けたらいいのにとマリューは思う。地球軍にいた時もそうだったように。

「ストレス発散には、これが一番いいんでしょ?」

 あの時は心底厭きれた彼の思考回路だったが、こうして彼と長年付き合ってみると、確かにそれもいいかもしれないと思ってしまう自分を、マリューは結構気に入っていた。
 ムウがそうするように軽く言えたかは判らない。でも、自分に視線を戻してくれた彼の瞳から、最初に感じられた言い知れぬ不安みたいなものは感じられなかった。

「そんなこと言っちゃっていいわけ? 調子に乗っちゃうよ、俺」

 ふっと表情を崩して軽口を叩くムウは、いつも彼女を支えてくれる彼にすっかり戻ったようだ。

「たまにはいいわよ。でも、お手柔らかにね」

 こんなことを言ったら彼女はすぐに後悔するかもしれないけれど、今はそれでいい。優しい空気の彼に惹かれるように、マリューはムウの首に手を回してキスをせがんだ。

「じゃ、お言葉に甘えるとしますか」

 腰に添えられる太い腕の感触に、マリューの醒め掛けていた官能が呼び覚まされる。下ろされていくジッパーの音をどこか人事のように感じながら、マリューはムウが与えてくれる快楽に心躍らせていた。

「もしかして、期待してる?」
「────っ!」

 かぁっと頬にが熱くなるのが自分でも判った。
 どうしてこう、この人はこんなところばかり鋭いのだろう。

「俺のこと気持ちよくしながら、興奮しちゃった?」
「も、もう! 私のことはいいから集中してっ!」

 自分の反応を楽しんでいるムウだったが、その手が止まることはない。するりとスカートを脱がし、すっかり肌蹴てしまっていたシャツと、ストラップが肩からずり落ちたままだったブラジャーを手際よく脱がし、ベッドの下へと落としていく。
 もう癖になってしまっているのだろう。そのどの動作にも協力するように体を動かし、脱がし易いようにしてる自分がからかわれてる時は恥ずかしい。

「怒らない怒らない。せっかく作ってくれた雰囲気が、台無しでしょ」
「ど、どっちが台無しにしてるのよ!」

 マリューの所為とでも言いたげなムウの口調に、つい強く反論してしまう。そんなマリューの反応をムウが楽しんでいることくらい、彼女は嫌というほど思い知らされているのに。

「だって、ほら────」
「ん、ふぁ………ッ」

 ぐちゅっという水音がマリューの耳にも届く。いきなりショーツを脇に避けて花弁に到達したムウの指に、マリューは自分がどれだけ昂ぶっていたかを気付かされてしまった。

「俺、まだほとんど何もしてないよな?」

 少しだけ残念そうな彼の口調に、マリューの羞恥心はさらに掻き立てられる。でも、もうそっと触れられてるだけではおかしくなってしまいそうなほどに熟れた彼女の躰は、ムウのほんの僅かな指の動きにすらヒクヒクと四肢を痙攣させ、敏感な反応を示す。

「ひゃぁ、ん、ふわあぁぁっ」
「ほら、ココはこんなにも素直なんだけどな」
「やぁっ! あ、はああァぁんッ」

 もっと奥へ欲しい。そんなものじゃ足りなくて、官能を持て余したマリューはムウのシャツを強く握り締めていやいやと首を横に振る。鼻の奥がツンと痛い。興奮で込み上げてくる涙を堪えながら、マリューは躰の熱りをどうすることも出来ないでいた。

「やめて欲しい?」

 なのに、彼はそんな意地悪を言う。
 彼女の花弁に触れた時点で、どれだけマリューが焦れていて、どれだけムウからの刺激が欲しいのか、経験豊富な彼が判らないわけないというのに。

「ぁ、は………」

 指の動きが緩やかになったことで、マリューは無意識にその指の動きに合わせて腰を震わせてしまう。何て厭らしい自分。経験が無かったわけじゃない彼女だったが、自分がここまで淫らに誰かを求めるようになるなんて想像も出来なかった。
 マリューは彼の問いに答えようと、涙で潤んだ瞳をゆっくりと彼へ向けた。

「ん、なに?」
「………はっ、んん」

 彼は待っている。彼女が自分の欲望を口にするのをじっと。

「ゃ……ないで…………」

 ムウの精液が絡んだ喉は嗄れ始めていて、マリューは上手く言葉にすることが出来ない。

「聞こえない。ちゃんと言って」

 そしてやっぱり、それで許してくれるムウではなかった。
 オーブの空のように綺麗なブルーの瞳が、優しく自分の言葉を待っている。そのムウの瞳に促がされるように、マリューはハッキリと自分の気持ちを告げた。

「──────やめな、いでっ!」
「了解」
「ん───ああああぁぁッ!」

 あんなにも声が上手に出なかったのに、どこからこんな大きな声が出るんだろうと思うほど、マリューは嬌声を上げていた。
 ムウの骨張った指が花弁を分け入って、一気に奥へと侵入する。その衝撃だけで脳髄を快感が走り抜けているというのに、ムウは無遠慮に膣内を掻き回し、それまで欲していたマリューの欲望を全て埋めてしまうかのように彼女を蹂躙した。

「は、ふあぁぁ……ひぅッ、ぁ、はああああんッ!」

 だが、彼女の躰はどこまで貪欲なのだろう。その刺激に段々慣れ始めたマリューは、更なる刺激を求めて蠢き出す。ムウの指の動きに合わせ、もっと奥、もっと自分が気持ちよくなれる場所に彼を誘導したくて腰を動かす自分を、マリューは羞恥と快楽の狭間で感じていた。

「ふわああぁぁッ!」

 そしてムウはそんなマリューに応え続けてくれる。指に夢中になっていたことで無防備になっていたマリューの乳首に、先ほどのお返しとばかりにムウが吸い付いてきたのだ。
 あまりに強い刺激に、反射的にムウの頭を抱え込むように抱きしめると、柔らかい金髪がマリューの頬をくすぐった。

「ひぁ、ふぅ………ッ」

 下腹部から脳髄へと駆け上がっていく快感。彼の指の形を覚えこもうと収縮する膣壁。真っ白になっていく頭の片隅で、何故かナタルの哀しげな笑顔が過ぎっていった。

「ア───、──────ッッ!!」

 声にならない悲鳴をあげ、マリューは真っ白な時の中に放り出される。それは、彼女にとって本当に幸せな瞬間だった。

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