ざぁざぁと 音
触れるは 水
帰ろうよ。
産まれた場所へ
ごろごろと 音
ぴしゃんと 光
気付いたよ。
待ち人椿
産まれは 赤
響きは 凛
帰するは 君
愛すも 君
この身は、偽
この身は ―――虚
重い頭で意識が覚醒した。サーヴァントである私に睡眠は必要無いのだが、知らぬ間に意識が落ちていたらしい。ぼんやりとした視界がハッキリしてくると、部屋はまるで夜のような暗さだった。
夜のような……いや、時刻はまだ夕方にもなっていない時間のはずだ。首だけ動かして時計を見やると、午後二時半。予想通りの時間だった。意識を落としてしまっていたのも、ほんの数分だったらしい。
「――――」
体を起こし、色素が抜け切った短い髪を掻き揚げる。意識が明瞭になって来ると、激しい雨音が聞こえいた。時折雷鳴も轟いている。どうやら時間の早い夕立か寒冷前線の通過だろうか、厚い雲に覆われた所為で、太陽の光が地上へ届いていないようだ。外の様子が全くわからなくなるほど大きな雨音。バケツを引っくり返したような豪雨が、世界を水で埋め尽くしているに違いない。
地響きにすら感じられる雨音に、この屋敷だけが世界から隔離されているような気分にさせられた。
「ん……ぅぅん…」
もぞもぞと隣で寝返りを打つのは、先ほどまで肌を重ねていた私の愛しい主。トレードマークのツインテールは解け、絹のような黒髪がベッドに広がっている。ベッドの周りには彼女の私服が脱ぎ散らかされ、綺麗にベッドメイクされていたシーツはくちゃくちゃになっていた。
今はすやすやと可愛らしい寝顔を見せているが、そんな彼女の全てを暴き、自分の激情をぶつけて悦がらせ狂わせた。
「――――」
安らかな彼女の寝顔を見つめているだけで、先ほどまでの情交が思い出される。美しく手入れされた肢体…その肌に舌を這わせ、唾液を染み込ませるまで味わった。深い碧を称えた意思の強い瞳が、快楽に呑み込まれて行くのを見ることが、何よりも自分の心を満たした。清んだ声が自分の愛撫にあわせて囀れば、もっと聞かせて欲しくて夢中になって彼女を愛した。
サーヴァントとして、マスターに邪な欲情をぶつけるなど、本来なら在ってはならないことなのだろう。騎士を冠する者として、自分の主に手を出すなどと、これほどの背徳感は有り得なかった。だが、その禁忌さえも今の自分にとっては快楽に擦り返られるだけ。
「……ふっ、んぅ」
本当に、この身はどうかしてしまったのだろうか。本当に先ほども何度も何度もマスターを貫いたばかりだというのに、新たな激情が自分の中から湧き上がってくる。そして、気が付くと寝入っている凛に、深い口付けをしていた。
――――くちゅ、ちゅっ
ドォーッとアスファルトを叩く雨音とは全く異質な水音、それが小さな世界に響いている。
「…あ、ぅんん……」
今だ眠りの中にいる凛は、酸素を求めて唇を離そうとする。先ほどもそうした様に、力ずくで凛を押さえつけた。
「ふ、んんっ…むぅッ」
苦しそうに腕の中でもがいてはいるが、絶対的な力の差によって、その抵抗も私にとっては逆効果でしかない。その姿は、今だ醒めぬ夢の中で、酸素を求めて彷徨う小さな稚魚を思わせる。呼吸さえも私に支配されてしまえばいい―――そんな、相手の人権を無視したような酷く我侭な思考が私を突き動かしている。
眉間に皺を寄せたまま開かれぬ瞳。彼女の表情も楽しみたくて、私は目を開けたままいつまでも凛の唇を犯していた。
「……はっ、あぅんッ!む、ぇ……?」
やっと、凛の碧眼が瞼の隙間から覗いた。一瞬で意識を覚醒させた凛は、驚いた様に瞳を見開き、首をいやいやと横に振って私の唇から逃れようとする。
「……は、凛…もう少し……」
「ちょっ!アー…チャぁ?」
聞かない。聞きたくない。拒絶の言葉など、今は微塵も欲しくは無い。
だから、何かを言おうとした凛の唇を塞ぎ、拒絶の視線を見なくても済むように今度は瞳を閉じた。どうしても逆らえないのだ。自分の欲望に。
凛の舌に自分の舌を絡ませ口内に招き入れると、さっきまでそうだった様に凛は素直に応じてくれる。そう、私が欲しいのは、全てを受け入れてくれるこの細くか弱い少女だけなのだ。
そっと目を開けて凛の表情を盗み見た。軽く閉じられた瞼は信頼の証なのだろうか、私にナニをされようと構わないという決意が見て取れて、一瞬で私は我に返る。
「―――っ!」
「…アーチャー?」
勢い良く体を起こして凛から距離を取った。そんな私を、凛は不思議そうに見上げてくる。
「どうしたの?」
「……すまない。今日は、どうかしている」
「魔力が足りないんじゃない?」
「いや、いくら君との契約が切れているからといっても、あれだけ補充出来れば本来なら充分過ぎるほどだ」
「!」
先ほどまでの情交を思い出したのだろう。一瞬で凛の顔が真っ赤になった。こういう年相応の反応は、正直とても可愛らしいと思う。
「少し、頭を冷やしてくる」
「待ちなさいよ!」
このまま凛の側にいたら、いつまた自分の欲望に負けるか分からない。霊体に戻り、雨の街を調査に出掛けようとした時だった。凛とした命令が耳に届く。契約を解除した時点で、召還された時使われた令呪の効力はもう無効となっている。だが、彼女をマスターとして付き従うことを誓ったこの身に、彼女のマスターとしての言葉は絶対の意味を持っていた。
「――――」
無言で凛を見つめる。彼女の真っ直ぐな瞳は私の汚い部分まで全て見透かされている様で、こうして後ろめたい事がある時など、酷く責められているような気分にさせられる。まぁ実際に彼女には、契約していた際に生前の記憶のほとんどを見られている。隠すべきものは何も無いのだが。
「……アーチャー」
「………」
聞きたくない。彼女の声で、今だけは何も言われたくは無い。
今、自分はどんな顔をしているだろう。きっと眉間に皺を寄せ、むっと口を結んだ不機嫌そうな顔をしているのだろう。叱られている子供の気分だ。
伐が悪くなって、ついに凛から目を反らす。
「アーチャー…こっちに、来て」
「っ!」
上ずった声。今のは、目の前のマスターから発せられたのだろうか。一瞬、自分の耳を疑った。
凛を見ると、シーツで胸元まで隠し頬を染めた彼女が私を見つめていた。
「私に、遠慮なんてしないでよ」
それは、一度体の奥に仕舞い込んだ激情を呼び覚ますには充分過ぎる破壊力を持っていた。理性が焼き尽くされる。さぁ、許しは得た。後は欲望のままに彼女を愛するだけだ――――
「はっ……ん、あぁ、ああんッ!」
凛の言葉通り、遠慮無く肌に吸いついた。胸元で握り締められていたシーツを剥ぎ取り、ベッドの背もたれに凛を寄り掛からせると、可愛らしく膨らんだ乳房の先端に唾液を落とす。そのまま乱暴に舌を這わせると、あっさりと凛は嬌声を上げた。
空いてしまった片側には手を添えてやる。
「くッ…ふぅん!」
加減して掴んだつもりだったが、痛みを感じたのだろう。凛の体がぎゅっと硬直した。そのまま乱暴にぐにぐにと指を食いこませてやると、少しずつ体の力が抜けていく。そう、痛みも慣れてしまえば快楽でしかないのだから。
左胸には相変わらず激しい快楽を与えてやる。私の唾液でどろどろになった乳首に、休まず舌を這わせ続けた。
「ん、はぁぁ…あ、あ、あ…んあぁ!」
一時の睡眠により快楽から切り離されてしまっていた体に、快感が駆け抜けているのが手に取る様に分かる。慣らされていない体は、ほんの少しの愛撫でいつも以上の反応を見せてくれる。
それにしても、先ほどもあれだけ舐めまわしたというのに凛の肌は実に甘美だ。魔術師である自分に女性としてコンプレックスを持っている彼女だが、そんなことを差し引いても凛の魅力がそこらの女性に劣るような事は決して無い。それを本人が全く自覚していないのも、また魅力の一つなのだろう。
乳首を咥えたまま見上げると、ぎゅっと瞳を閉じて与えられる全てを必死で受け止めている凛がいた。だらしなく開かれた唇からは喘ぎ声がただ漏れになり、涎が顎まで伝っている。マスターとしていつも一歩前を歩く凛の後姿と重ねてみても、同一人物とは思えない乱れぶりに口元が吊り上る。
「あぁ、私ばかりが欲しがっているのかと思いもしたが、とんだ検討違いだったようだな」
「う…ぁぁ、え…?」
胸の突起に舌を這わせながら言うと、薄っすらとまだ光を残した瞳が私を見つめる。
「あれだけ“した”のに、まだ足りないと感じているのは君の方のようだな。凛」
「ちっ違!……ぁっ」
反抗の言葉は言わせない。コリっと口に含んだ乳首に歯を立てた。それだけで凛はふるふると体を震わせて快感に堪える表情を見せる。
「だらしなく口を開けて…なんだこれは」
顎に伝っていた涎を指で掬うと、そのまま凛の口の中に突っ込んだ。
「うむぅっ」
「自分の唾液だ。しっかり綺麗にしないとお行儀が悪いぞ、凛」
「…んっ、あむ、ちゅ」
一瞬驚いた凛だったが、私の言葉を聞くと素直に指に舌を這わせる。最初は舐め取るだけだった舌の動きだったが、私の手を自ら手を添え、頭まで動かして舌を這わせてくれる。私も応えるように、二つの膨らみへの愛撫に念を入れてやった。
「っ!んん…ぁ」
凛は私の指を『何か』に見立てているのだろう。熱を帯びた愛撫だけでなく、口を窄め、吸い付く様に指を出し入れしている。
ぎゅっ…と太腿に力が入り、微かに擦り合すような仕草をする。
「―――は、そんなに私の指は美味しいか。凛」
「う…ちゅ、ぅん、んぁっ」
私の声が聞こえないのか、一心不乱に指を愛撫してくれる。その夢中になった姿が可愛くて、胸を愛撫してた手でそっと頭を撫でた。
指を離し、ぼんやりと視線を泳がせる。
何も考えなくていい。今は、私に溺れていれさえすればいい。
凛に考える余裕など与えはしない。私は膝立ちになると、凛の開かれた唇に堅く張り詰めた己を突っ込んだ。
「んぁむっ!」
指よりもずっと太いそれに、凛の顔が歪む。征服感―――サーヴァントが持つには余りにも過ぎた想い。だが私の欲望は留まる事を知らない。彼女を道具の様に扱いたくなって、両手を凛の頭に添えると乱暴に動かした。
「っむぅ!んっ!んんぅ!」
苦しそうに漏れる呻き声。それでも凛は私の一物に歯を立てる事など決してしない。さすがに私を悦ばせるような愛撫は行え無いようだが、自分の唾液を潤滑油代わりにして乱暴な扱いさえも受け入れているかのようだ。
じゅっぽじゅっぽと卑猥な水音が耳に心地良い。凛の顔は自分の唾液と、息苦しさから流れ出した涙でベトベトになっている。汚したい。もっと、あの聡明な少女をドロドロにしてやりたい。
「っく…」
ぎゅっと目を閉じ苦しさに歪んだ凛の顔、可愛らしい口に捻じ込まれた肉棒、歪んだ幸福感に理性が捻じ切れる。早くも限界が来てしまい、奥歯を噛締めた。
「凛、出すぞ…」
「んぶっ、じゅっ、むぅっ」
挿入を邪魔しない様に、微かに凛が頷いた。
「は―――っ、ぅあ…くッ!」
「んんんッッ!!」
それを合図に全てを開放してやる。あまり堪えず出してしまった割りには大量の精液が、凛の口の中を汚していく。
「くぅん、ぷぁッ!」
賢明に口を閉じ、それらを全て飲み込もうとしていた凛だったが、耐えられなくなったのか、思わず私を吐き出してしまった。精射の途中だった肉棒が凛の顔の前で跳ねる。結果、白濁した分泌物はぼたぼたと凛の白い肌や美しい髪まで汚してしまった。
「はぁ…、アーチャーの、熱ぅい……」
嬉しそうに生臭い精液を浴びながら、口元からは飲み切れなかったそれが溢れている。白い塊に化粧された凛は、卑猥な美しさを醸し出していた。
「アーチャー、私……」
―――ぞくり、と戦慄が駆け抜けた。凛は媚びる様に私を見つめ、頬を赤らめている。それはこれ以上の行為を望むという懇願。あれだけ乱暴に扱ったというのに、彼女はその行為に昂ぶっていたというのか。その姿を見ているだけで、今出したばかりの己に再び熱が篭るのが分かった。
いつからこの聡明な少女はこんな表情をするようになったのか。プライドが高く、決して人に媚びたりしない魔術師としての遠坂凛が、エミヤシロウに淫らな行為をねだっている。
「凛、君は随分厭らしくなったのだな」
ぴくっと凛の体が硬直した。私の言葉に羞恥を覚えたのだろう。只でさえ紅潮したいた顔が真っ赤に染まる。
「だっ、だってアーチャーが……」
「人の所為にするのは褒められた行為ではないぞ、凛。」
言いながら凛を押し倒すと、太腿に手を這わせる。
「―――ぁっ!」
小さく凛が声を上げた。
「あぁ、こんなに漏らしてしまうほど感じてしまったのか。君の愛液でシーツが染みになっているぞ」
太腿を撫でた時に触れたシーツはぐっしょりと濡れてしまっていたのだ。
「私ばかりが気持ち良くなってしまったみたいで申し訳なかったな、マスター」
「ん…うあぁ……」
強弱を付けてゆっくりと太腿を撫でまわす。決して肝心な部分には触れず、しかし凛の感度を上げるような手付き。自分とて、あまりこういった行為に長けているとは思わない。だが、経験の少なすぎるこの少女を翻弄することは容易だった。生前の知識―――どこが弱くて、どうすれば悦ぶのか。私は充分過ぎるほど知っているのだから。
「アーチャー…、アーチャー…」
小刻みに体が震えている。触れて欲しくて、本人も意識しない内に腰が蠢く。瞳を閉じたままうわ言のように私を呼ぶ声は弱々しく、いつもの彼女は消え去ってしまっている。
羞恥と快楽の間で揺れ動き、最後には私の思うように乱れるその体は、いつも私の手によって堕とされるのだ。その瞬間が近い事を感じ、私は更に凛を追い詰めていく。
「凛、腰が動いているぞ」
「っ!や…いやぁっ!」
顔を真っ赤にし、いやいやと首を横に振る。しかし、その腰の動きは止まりはしない。
「厭なものか。体はこんなにも正直だというのに、自分に嘘を付いたままではこれ以上続ける価値も無いぞ」
「そ、んなぁ…んぅっ……」
体を撫で回す手は止めない。太腿に添えられた手は足の付け根の辺りを重点的に、空いた手で頬や髪、そして胸やお臍の辺りを軽いタッチでなぞっていく。深く快楽を与えず、しかし凛の知っている快楽を思い出させる様に。
「では、どうして欲しいのか、サーヴァントである私に命じたらどうだ」
ニヤリ…と、自分でも分かるほど意地の悪い笑みを浮かべて言った。
その言葉を聞いて、薄っすらと凛の瞳が開き、私を捉えようとする。頭の中は真っ白なのだろう。虚ろな瞳が虚空をさ迷った。
「あ…ふぅ、んっ……」
時折性感帯を私の手がなぞっているのだろう。ぴくりと体を硬直させている。
「命じ…る?」
私の手で操られた人形は、良く分からないといった様子で呟く。
「そうだ…凛、どうして欲しい」
「ぅあっ、わ…分から、な……っ」
「ゆっくりでいい、考えろ」
そっと頭を撫でると、凛の瞳から一筋の涙が落ちた。焦らされて軽いパニックを起こしているのかもしれない。しかし、そのくらいでは許しはしない。その口から淫らな欲望を引出し、自らこの私を求めてから出無ければ……。
「はっ…、アーチャーぁ……」
「なんだ」
「わた…しっ」
そうだ、この私を求めろ、凛。
「―――もっと、キモチヨク……シテぇ」
それは、この行為を自ら求めた証。これ以上の快楽を欲したのは自分だと、言った凛が一番分かっているだろう。再び目はきつく閉じられ、横を向いて奮えている姿は、逃げられ無いことを悟った小動物の様だった。