OUTLINE
相模陸+あらたゆん合同誌
『Memory conquers all』
−記憶は全てを克服する−
鏑木虎徹×友恵
A5│24P│表紙フルカラー(オフセット)│本文コピー
2012.10.07 発行
全年齢向け
Guest:表紙 カゲロウ
RIKU SAGAMI
「ふぁぁ……」
「まったく、虎徹くんってば……」
思わず大あくびをすると、友恵が深くため息をつく。目尻に滲んだ涙をごしごしと擦り取って、虎徹は苦笑いした。
「いやぁ……けどさ、せっかくこんないい天気なんだし、図書館なんかに閉じこもってんの勿体ないだろ。
どっかで食いもん買って、適当に公園でも行かねぇか?」
「んー……、それもそうね。たまにはいいかも」
反対されるかと思ったが、友恵は案外あっさりと頷いた。この穏やかな陽気がもたらす誘惑に、彼女もどうやら抵抗出来なかったらしい。
(よっし!)
久しぶりのデートらしいデートである。思わず虎徹は、内心ひそかにガッツポーズを決めた。
図書館では回りの目もあって、額を突き合わせながら本当に『勉強』するだけだし、学校帰りの短い時間ではろくに話す余裕も無い。そんなこんなで、真面目な友恵と(一応)硬派の虎徹では、中々お付き合いと云えるレベルには至っていないのであるが、そこは虎徹だって年頃の男の子である。健全なクラスメイト同士の交流から、もう一歩くらい先に進みたい──と、彼はこのところ、少々この関係に焦れったさを感じていたのだ。
(て、手を握るくらいは──いけるか?)
アレコレと少々やんちゃをやらかしている虎徹だが、女性には極めて奥手である。異性と付き合うどころか、『好きだ』と意識したのも友恵が初めてだ。彼の経験値では、キスだのその先だのと言った領域には、まだ到底想像が及ばないが、せめて手を繋ぐ程度のミッションはそろそろクリアしたい。
暫く道なりに歩いたところで、ふと友恵が声を上げた。
「あ、虎徹くん、見て! あれ、結婚式じゃない?」
「……んあ?」
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YUN ARATA
「────」
「────」
小さな部屋の中で、長い長い沈黙だけが流れていく。
突然目の前に出された紙切れに対して、最初は血の気が引く思いだった。悲しみとも焦燥とも取れる感情が渦巻いて、紙切れと彼女の顔を何度も見比べてしまったが、動揺する虎徹と違い、目の前の彼女は落ち着いた表情のまま、覚悟はとうに済ませてあるといった凛とした空気を崩そうとはしない。
けれどもそんな友恵の態度が、虎徹の頭をクールダウンさせてくれた。
「はぁ〜……」
ボリボリと頭を掻きながら、彼女の真意を想像する。もう短い付き合いじゃないんだ。なんとなくだけれど、こんなものを用意した理由は想像がついた。
「あのなぁ、いくら友恵ちゃんでも、していい冗談と悪い冗談があると思うんだけどな」
「私が冗談でこんなことすると思う?」
取り付く島もないとは正にこのことだ。良く言えば芯が強くて、悪く言えば頑固。こうと決めてしまうとあまり融通の利かなくなる彼女の仮面のような笑顔を、虎徹はじっと見つめた。
「まぁ、そりゃそうだ、な」
───離婚届
そう太い文字で書かれた事務的な紙切れには、既にほとんどの項目が埋められていて、後は彼のサインさえあれば公的に認められる書面が完成してしまう状態だ。
一緒に病魔と戦っていこうと話し合っていはずだから、こんな形で突き放されるとは夢にも思っていなかった。だからこそ彼もそう簡単に『ハイ、そーですか』と認めるわけにはいかない。
ぐるぐると思考を巡らせていた虎徹だったが、こういう彼女を前にした時、あれこれ考えるのは逆効果だ。
虎徹は腹を決めると、真っ直ぐに友恵を見つめ返す。
「却下だ」
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