僕個人の経験から推し量れないことなのだが、今日のこれ以上の窮地なんて、未だかつて僕は一度として経験したことがない。
日本がブリタニアに無条件降伏して七年、僕もそれなりに苦労してきたし、命の危険だって感じたことが何度だってあった。名誉ブリタニア人になって軍に入ってからの生活だって、決して『楽しい』なんて言える代物じゃなかったし、理不尽な作戦や上司からの嫌がらせに耐え切れず、自殺した同僚だってそれなりに見送って来ている。その前の少年期だって、家の中には大人たちの都合がいつも渦巻いていて、毎日が平穏だったかといえばそれも違っていたし。
でも僕はまだ十七歳だから、若輩者の部類を出てはいないし、経験だって先人のそれと比べたら『小僧が何を言うか』と鼻で笑われてしまうほどかしれない。
だけど今、僕は本当にどうしたらいいか判らないでいた。
綺麗に整理整頓され、隅々まで掃除の行き届いていた部屋は既に原型を留めておらず、あちこちに色々なものが散乱してしまったこの空間は、どう見繕ってもここが公人の私室であるなど信じることは出来ない。破られたカーテン、割れた美しい壺、中身のぶちまけられたクローゼットに、足の折られたアンティークの椅子。散らばった物の中には、僕が命を賭して守り抜いた物も存在したのだが、元あった場所に戻す余裕など今の僕にありはしない。
そして自分の体に容赦なく圧し掛かる重圧、一方的に浴びせられる罵詈雑言。
例えそれが自分に向けたものでなかったとしても、どれほど優しく宥めても一向に止む気配のない言葉の嵐に、僕の力は抜け、相手の気の済むまで付き合う覚悟が出来つつあった。しかも少し前から、同じ言葉のループな気がしているのだが、僕の幻聴だと思いたい。
そう。彼女に限らず、こうなってしまった人間に何を言おうとも、所詮は徒労に終わる運命なのだろう。
まぁそれだけなら僕は、この状況をそこまで窮地だとは思わなかったかもしれない。一番の問題、それは────僕の上に圧し掛かった彼女が、僕には刺激の強すぎて耐えられない『下着姿』であること。彼女の痴態を見たことがないわけではなかったが、こんな状況でその格好で圧し掛かられては、手を出すこともこの部屋を逃げ出すことも叶わない。
ものっすごい、生殺しだ。
まるで茹蛸のように真っ赤に顔を染め、見たこともないほど取り乱した彼女の顔から視線を逸らし、僕はぼんやりと真上を見つめた。
あぁ、今日始めて気付いた。この豪華な天蓋付きのベッドには、こんな絵画が描かれていたんだ。彼女は毎晩これを眺めてから眠りに付くんだなぁ……。
「聞いているのれすかくるるぎしゅじゃくっ!!」
「ユフィ、そろそろ酔いを醒ましてくれるとありがた───」
「ぶれいものっ! わらくしは、酔ってなんくぁいまっすぇんっ!」
いや、呂律回ってませんから、ユーフェミア皇女殿下。
+ + + + +
あの学園祭の宣言から正式なエリア11の政策となった経済特区日本は、本国の力強いバックアップも受けて日々着々とその準備が進められていた。
富士山周辺の区画整理から始められ、受け入れ人口の算出、イレブンから日本人への手続き方法の構築に求人確保の為の企業誘致などなど。それら全ての最終的決定権は、この特区日本構想の原案者であるブリタニア第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアに一任されており、補佐のダールトンや側近たちを含め、その忙しさたるや想像を絶するものがあった。
もちろん細事はそれぞれの担当者が採決出来るようにシステム化されているのだろうが、それにしても彼女に上がってくる案件の量は、それはそれはものすごい数で、それら全てに目を通して処理をするだけで一日が終わってしまいそうなのに、各人が足並みを揃える為の会議は幾度となく重ねられ、さらには要人たちとの会食までこなす日々。
学校もあり、特派とユフィの騎士を兼任している僕は、ユフィが必要とするそれら全ての公務に付き合うことが出来ずにいた。
コーネリア様の騎士であるギルフォード卿くらい僕に力や経験があれば、ユフィをサポートすることも可能だったのかもしれないけど、戦うことしか脳のない僕に政治の難しいことを手伝うなんて────いや、例え僕にその才があったとしても、ナンバーズの僕にブリタニアの政治に携わらせることなんて、きっと政庁の誰も許しはしないのかもしれない。
だけど、彼女を護ることだけはブリタニアから僕に許された役目であり、この国を中から変えていきたいと思っている僕にとって、今この状況は大きな前進とも言える。それは全て、僕の主であるユフィのお陰なんだけど。
「それにしても、ユーフェミア様の決断には心底驚かされましたよ」
「本当に。ユーフェミア様は先見の目をお持ちとみえる。ナンバーズにこのような特例をお与えになるなど、私共では到底思い付きもしませんからなぁ」
「ありがとうございます。でも、こうして順調に準備が進められているのも、お二人のご協力があってこそです。
これからも若輩者の私に、ご指導のほど宜しくお願い致しますね」
さわやかで可愛らしい笑顔が目の前の二人に返される。誰が聞いても厭味でしかない二人の言葉にも関わらず、ユフィは嫌な顔一つせずに彼らの機嫌だけを損ねずに大人な対応をして見せていた。
それなのに、まるで蛞蝓のようにねとついた視線がユフィに絡み付いているのを、僕は彼女の後ろから見守ることしか出来ないでいる。
和やかな雰囲気でこの会食が進んでいるように見えるのは、ユフィが彼らの悪意を上手にかわし続けているがゆえ。金儲けのことしか考えていないようなこの男たちは、特区日本という金の臭いを嗅ぎ付けてハイエナのように集まってきた金の亡者に過ぎない。しかしこういった商人たちの力が行政特区日本に必要なのは、いくら頭の良くない僕にだって判る。なによりこういう人間は、しっかりと目を光らせてさえいれば権力と金の前に実にいい仕事をしてくれるからだと、ダールトン将軍より教えて頂いていたから。
だけど、それとこれとは話が別だ。
会食が始まってからというもの、ユフィから掛けられた数々の感謝の言葉に加え、エリア11でも最上級の料理が自分たちの為に次々と運び込まれる。政庁という普段入れない場所で興奮していた所為もあるのだろう。高級な酒に酔っていくにつれ、明らかに調子に乗り始めた彼らは、自分たちも参加しているはずの特区日本をことあるごとに馬鹿にしたような発言をし始めていた。
そればかりか、皇女であるユフィを見下したような物言い。出された酒はよほど美味かったとみえ、最初は紳士的であった男たちは少しずつ卑しい本性を現し、遠回しにねちねちと、それでいて決して逃げ道は忘れずに言いたいことを言うだけの輩に成り下がってしまっていた。
ユフィの隣に座るダールトン将軍に時折視線を移してはみたが、将軍は眉一つ動かさずに双方のやり取りを聞いているだけである。が、恐らく相手が許しがたい言動を口にしたならすぐにでも処罰する算段を脳裏にいているに違いなかった。
「しかし、ユーフェミア様はイレブンに特別な思い入れでも?」
それは、食事もデザートが振舞われ、この会食も終わりに近づいていた頃だった。男の内の一人がユフィにそんな問いを投げかけたのだ。
「?」
「まぁまぁ、そんなことを聞いたら失礼でしょう。
ユーフェミア様はナンバーズを騎士にしてしまわれるほど、彼にご執心なのですから」
「────え?」
ついにユフィが困惑の声を上げたことなど気にも留めず、男たちは失礼なのはどっちだと言いたいほどの視線を、僕の方へと向けていた。
僕自身そんなのには慣れっこだったが、僕を辱めるということは、それを騎士に選んだユフィをも辱めるということ。僕は感情を表に出さないようにしながらも少し厳しい面持ちで、二人の男へと視線を向けた。
「……はは。皇女殿下といえども、お年頃ですものなぁ」
僕の視線に軽く怯えたのだろう。僕から視線を外した男たちは、まるで二人だけの会話を自分たちに聞かせようとするかのような態度で口を開き続ける。
「そうですなぁ。公の会食まで連れて来てしまうほど、彼がお気に入りなご様子」
「そういうことへの興味が強いお年頃なのでしょうねぇ」
「本国にいらした頃はまだ学生だったとか」
そうしてユフィへ向けた男たちの瞳には、明らかな悪意は見受けられない。しかしそれ以上に嫌悪したくなるような、醜猥な色が二人の瞳に濃くなったかと思うと、一人がとんでもないことを口に出した。
「それはそれは、さぞやお盛んだったことでしょう」
「な────っ!」
さすがの僕も堪え切れず、驚きの声を上げてしまう。直立不動で控えていた場所から体を乗り出し、それ以上口を開けばこの場で剣を抜くことも覚悟したが、男たちにはそれが判らないのか尚も失言はとまらない。
「皇族といえども所詮は人間。我々も学生の頃は、ねぇ?」
「はっはっは。私は自慢するような話は何もございませんが……そうです、ユーフェミア様。若いのもいいかもしれませんが、たまには私どものような歴戦の将のお相手もしては頂けませんか」
「それは良い考えです。さ、ユーフェミア様、ナンバーズなどよりはよほどいい思いを────」
────ダンッ!
「無礼者っ!!」
「ダールトン」
僕がテーブルを飛び越えて二人を地べたに這い蹲らせようと足を一歩踏み出したのと同時に、ダールトン将軍の厳しい叱責が部屋の空気を奮わせた。しかしユフィは、怒り心頭なダールトン将軍を涼しい声で抑え、何事も無かったかのように笑顔を作って二人に微笑みかけてしまう。
「さすがは諸先輩方、確かにお二人の仰られる通りです。
本国で学生をしていた頃は、ご学友の皆様からそういったお話を聞くこともあったんですよ」
「……………」
「……………」
しかしダールトン将軍のあの迫力に怒鳴られた二人に先ほどまでの元気は無く、青褪めた顔をしてただ俯いているだけ。
「皆さん顔を赤らめて、そっと私にも教えてくださるんです。そんな時は心が温かくなって、恋って素敵だなってずっと憧れていたおりました」
「は、はぁ……」
ユフィが全く動じていない上に、何を言いたいのか見えてこない回答をされている二人は、なんだか困惑しているようだ。曖昧に相槌を打ちながら、上目遣いにチラチラとユフィを見つめている。
「その頃から決めていたんです。もし私にもそんな相手が現れたら、自分にとって本当に大切な人には、そっと報告しようって。
それなのに、お二人はお心を広くお持ちなんですわね。こんな私にまでそのようなお話をして下さるなんて、このユーフェミア、とても恐縮致しましたわ」
そうして花のような笑顔を二人に向け微笑むと、これで自分の話は終わりだとでも言うかのように目の前のティーカップを優雅に口に運んだ。
「………そ、それではユーフェミア様、ダールトン将軍、私どもは今日はこの辺で」
「そ、そうですな! あまり長居をしても、ユーフェミア様はお忙しい身でしょう。どうぞ、今宵はお早くお休みになられませ」
将軍の怒声とユフィの態度ですっかり酔いが醒めたのだろう。それまで出された物は全て平らげていた二人だったが、食べ掛けのケーキもそのままにそそくさと席を立ち上がっていた。
それに応じるように向かいの席に座っていたユフィと将軍も席を立ち、見送りの為に出口へと向かう。
自分も二人の後ろに続き、逃げるように部屋の外へ出て行こうとする二人に向かって頭を下げた。
「私共は今後とも、国の為に誠心誠意働かせて頂く所存であります」
「皇族の方々とは今後とも友好な関係を保ちたく、宜しくお願いいたします」
────バタン
全くもって白々しい捨て台詞を吐いたかと思うと、大きな扉が閉められる。今頃は別の人間に案内されて政庁の外へと歩き始めている頃だろうが、念の為扉の閉まる音がしてから十秒ほどは、そのままの姿勢を保っていた。
「ユーフェミア様、よく我慢なさいましたね」
僕が顔を上げるのとほぼ同時に、ダールトン将軍がユフィに労いの言葉を掛ける。
「今回の特区関係の工事には、歴史ある大企業からの入札はほとんどありませんでしたからね。あの様な成り上がりばかりでお疲れでしょう。
ですがこれも公務の一環です。ご自身の成長の為と思ってご辛抱を────」
「ダールトン」
「はい」
扉に向いたまま振り向きもしなかったユフィが将軍の名を呼ぶ。
ユフィがこちらを向いてくれないために表情までは見ることが出来なかったが、自分の勘が正しければ、その背中からは負のオーラが立ち上っているように感じられた。
「皇族に対するセクシャルハラスメントは、法に訴えることが可能でしょうか」
静かな物言いだが、声色が妙に硬い。
「ユ、ユーフェミア様?」
そんなユフィの様子に、さすがのダールトン将軍も動揺の色を隠しきれないようだ。
………将軍、お気持ちお察し致します。
「確かに私、今日はとても勉強になりましたわ」
穏やかな口調とは裏腹に、そう言って振り返ったユフィは、給仕や侍女、もちろん僕や将軍も含めその場に居た全員が一歩下がってしまうほど凄みのある笑顔で、僕の見間違えでなければ眉間には青筋が立ち、ヒクヒクと痙攣を繰り返していた。
「ダールトン。私は今日のこの会食で、人間耐えるばかりではなく、時には勇気を持ってこちらの主張を相手に伝える努力が必要だと学びました。
すぐに、告訴の準備をお願い致します」
「し、しかし───」
「こんな辱めを受けて、大人しく我慢していろと言うのですかっ!」
「っ!」
「!!!」
普段頑固はところがあっても、滅多なことではここまで声を荒げたりしないユフィの怒声に、やっと僕は思い出すことが出来た。どんなに気丈に振舞っても、どんなに冷静を装っていても、ユフィは僕より一つ年下の女の子で、あんなことを言われたら簡単に傷ついてしまうんだってことを。
やっと怒りの矛先を得たユフィは、両手を強く握り締めてわなわなと肩を震わせながら怒りの言葉を続ける。
「私の特区構想に賛同し、イレブンの皆さんが日本人となれることを喜んでくれてる、そんな企業が特区日本を作ってくれるんだと私は本当に嬉しかったんです。なのに、あんな厭らしい目で私を見つめるばかりか………いいえ、私のことは何と言われようとかまいません!
ですが、私が通っていた学校を愚弄し、友人たちを辱め、あの二人の思考は一体どれほど腐っているというのですか!!」
ユフィの気持ちが収拾付かないものだと判断したダールトン将軍は、目配せで従事していた者たちを急いで部屋の外へと下がらせる。これ以上ユフィの醜態を他人に見せないためだ。
「そればかりか、私がスザクを騎士にした理由を……理由を………っ!」
涙ぐみ始めたユフィの背中に最後の侍女が礼をして下がったのを確認して、僕はやっとユフィに歩み寄ることが出来る。
「ユーフェミア様、申し訳ありません。あんなことを言わせたままで、自分は────」
「スザクは何も悪くありません!」
そっと肩に手を置くと、俯いていた顔を上げて僕の言葉を全力で否定してくれる。
「どうして彼らは、あぁも発想が貧困なのでしょう! スザクはこんなに素敵で、紳士的で、確かにちょっとエッチなところはありますけど、」
「ユーフェミア様っ!?」
「ゴホンっ!」
背中にダールトン将軍の咳払いが聞こえた。
ユフィ、怒ってくれるのはすごく嬉しいんだけど、もうちょっと落ち着いて言動に気を付けてくれると……!
将軍が気を使って他の皆さんを下がらせてくれていたことに、僕は心底感謝していた。
しかし、そんな僕たちの気持ちなど全く見えなくなってしまったユフィは、尚も声を荒げて叫び続ける。
「でも私にとっては優しくて頼りがいのある、たった一人の騎士なんですよ!!! それなのに、それ……なのに、ケホッ!」
「ユーフェミア様、とりあえず少し落ち着いて下さい。座って何か飲まれますか?」
怒りに任せて叫ぶなんていう慣れないことをして喉がカラカラになってしまったのか、咳き込むユフィに椅子を勧めようと背中に手を置いた時だった。
「これで結構ですっ!」
「な───!」
「そ、それは!!」
────ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ
勢いよくユフィの喉が鳴っていく。ダールトン将軍の席からユフィが取り上げ一気に飲み干しているのは、濃い紫色の液体。そう、赤ワインだった。
彼女がお酒を飲めるかどうかなんて僕はまだ知らなかったけれど、ユフィのその姿を見てダールトン将軍も一緒に固まっているところをみると、普段から常飲しているわけではなさそうだ。
と、いうことは。
「────っぷ、はぁッ!
それなのに、まるで体だけのような言い方をするなんてーっ!!」
いい飲みっぷり、そして見るからに高級そうなグラスを、割らないよう上手にテーブルへと叩きつけたことは賞賛に値しますがユーフェミア様、どうか本当に落ち着いて下さい。
「さぁダールトン! 告訴の準備をお願いしますっ」
「し、しかしそれでは、現在進行中の工事にも影響が……」
「かまいませんっ!」
「ユーフェミア様、それだと特区日本が予定通りに行政を始めることが出来なくなってしまいますっ!」
「ならどうしろというのですか!?」
そしてこちらに振り返ったユフィの顔は既に真っ赤で、それだけで僕は、ユフィがお酒に弱いのだと嫌というほど理解する。頭に血が上った状態でまくし立てたユフィの体には、この一瞬ですっかりアルコールが回ってしまっているのだろう。恐らくユフィは、既に自分が何を言っているのかすらよく判らなくなっているに違いない。
「私がスザクを騎士に選んだのは、貴方を死なせたくなかったからです!
戦場で死に急ぐかのような戦い方をする貴方を見て、私はスザクを失いたくないって思ったのです!! 私を護るという目的があれば、あんな風に戦わないんじゃないかって」
「ユフィ……」
「それなのに! それ……なの、に…………」
「ユフィ!?」
「ユーフェミア様ッ!」
膝から崩れ落ちたユフィを、僕はしっかりと抱き留める。僕に重みを預けてくれたユフィの体は信じられないほど熱くて、僕は思わずユフィの額に手を当てていた。
「ユーフェミア様は大丈夫か」
「……大丈夫みたい、です。寝息が聞こえますから」
額から感じる熱も、熱を出したときなどとは違って温かいものだった。
「普段飲まれないものを、あのように煽られたからでしょう」
「そうだな」
しっかりとユフィを抱き上げて視線を将軍に移すと、見たこともない穏やかな瞳でユフィを見つめるダールトン将軍と目が合った。将軍は僕と目が合ったことですぐに視線を逸らしてしまったが、それはまるで父親が子を見るような瞳で、僕はなんだか彼女の肢体を抱きしめた両腕に後ろめたさを感じてしまう。
「将軍、ユーフェミア様をどちらへお連れすれば……」
「───────」
何故だか即答してくれない将軍に居心地の悪さを感じてしまうが、今はユフィの騎士としての時間だ。彼女を抱きかかえたまま姿勢を正し、上官の指示をじっと待つ。
「そうだな。君が、そのまま寝室までお連れするといい」
「イエス、マイ────え?」
その言葉に耳を疑ってしまい、思わず上官に聞き返してしまう。
僕の驚いた顔がよっぽどおかしかったのだろう。威厳を讃えた表情をニヤっと崩すと、将軍はやっぱり父親の様な顔をして言葉を続けてくれた。
「貴公は幸せ者だな、枢木スザク。
ユーフェミア様の寝室の場所は知っているのだろう。なら、そのままお連れしてあげなさい」
「ですが、」
「何度も言わせるな。後のことは私に任せればいい」
そして僕たちに背中を向け、侍女たちが下がった部屋へと歩き出してしまった。
「将軍……。イエス、マイロード」
その背中が少しずつ遠くなっていくのを見てやっと意味を理解した僕は、心からの感謝の気持ちを込めて上官に対する返答を口にした。
...to be continued