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『おかわり!※きつねだけ』
  • 2013.05.03(SCC22)発行
  • A5│36P│表紙FC│オフセット│全年齢向け

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書店委託

ヤミカ

あらたゆん

「……熱い」
「え?」
 のん気に訊き返す奈々生に、鎮火したはずの怒りの炎が再び燃え上がってくる。
「鬼切、すぐに奈々生の部屋へ体温計を持って来い! 虎徹、お前は新しい手ぬぐいと桶に冷たい水を汲んでくるのだ!
 急げ!」
「「畏まりましてございます〜〜〜っ」」
 二人が散り散りに飛んでいくのを確認すると、巴衛は包んでいた奈々生の手の平をぐいと引っ張り、背中と膝の裏に腕を添える。
「ちょ、えええええっ!?」
「静かにしていろ!」
 抱き上げたぐらいで声を出すな、とぼやきながら、巴衛は大股で廊下を歩いていく。その手の平と同じく、抱き上げた奈々生の身体はいつもよりずっと熱かった。
 瑞希の言う通り、土地神の自覚だとか、自分の忠告を聞かなかったとか、そういったことはこの際全部あと回しにして、奈々生を寝かしつけることに専念すべきだった。彼女が無事であること以上に大切なことなど、この世に有りはしないのだから。
 開けっ放しだった奈々生の部屋に入ると、巴衛は彼女を布団の上にそっと下ろし、掛け布団をかけてやる。そして体温計が届く前に少しでも彼女の状況を知りたくて、指先で額や首筋にそっと触れた。

茶っぱ

 いつも巴衛は奈々生に付きっきりなので時々忘れてしまうが、学校の女子を始め人間妖怪問わず彼はモテている。ルックスは申し分なく、何でも完璧にこなすし、おまけに強いのだから当然だろう。対してその巴衛が仕えている主人である自分は、なんの特技もない至って普通の女子高生だ。
 改めて考えてみれば落ち込む要素満載で、徐々に巴衛が作った豪華絢爛なお弁当をつつく箸が重くなる。ついには溜め息を吐いて重箱の蓋を閉じれば、フォローするようにケイが言葉を続けた。
「まあ当たって砕けるくらいの勢いでさ。そしたら向こうも意識しだすかもよ?」
「…そうかなあ。巴衛はキスなんて、慣れてそうだからどうってことないと思う。それこそ蚊に刺されたくらいにしか思わないよ」
「うっ!た、確かにあいつ慣れてそうな顔してるわ」
 好き放題に言われているが、否定できないのであえて何も突っ込まなかった。それに自分自身で言ったことだというのに、馬鹿馬鹿しいほど傷ついた。
 巴衛は奈々生よりずっと長く生きていて、昔は色々と悪いこともしていたのだという。たかだか十七年生きている自分より、色々と経験しているのは当然だ。
過去のことをとやかく言うつもりもなければ、言う権利もない。けれどやはり深く考えてしまうと、胸がもやもやする。それは明らかに嫉妬だった。
 そう自覚してしまえば、奈々生の中で意地のような気持ちがむくむくと芽生える。
気付けば友人二人の前で、勢いのまま声を上げていた。
「私、決めた」
「……え?」
「絶対に、巴衛とキスする!」
「え…、ええ!?」