一体何を考えているのか。
その日、風呂から上がってきた遠坂は、俺のYシャツだけを軽く着て、長い髪をバスタオルで巻いただけという格好だった。
「ふぅ……」
サッパリした。とでも聞こえてきそうな艶やかな溜め息を吐く。
髪に巻いたタオルを外すと、ふぁさっと音が聞こえるかのような優雅さで長い髪が彼女の肩に掛かった。
甘い香り――――遠坂が自分で持ち込んだ、俺とは違うシャンプーの香りだ。
そんな彼女に見惚れてると、居間に腰を下ろした遠坂がチラリとこちらに目をやる。
太ももをほんのちょこっとだけ辛うじて覆ったYシャツから伸びる長い足に、思わず目のやり場に困った。
あの下には、何か履いているのだろうか―――――――
「何よ?」
俺の視線を感じ、遠坂が声を掛けてくる。
「ちょ、お、お前ッ!分かってやってるのか!?」
「あぁ、コレ?パジャマ部屋に忘れてきちゃったから、借りたわ……って、ハハぁ〜ン♪」
俺をからかう事に掛けては天下一の彼女の表情が一変する。
うあ。あかいあくま 降 臨 。
「ぐっ。そんなのはどうでもいいから、早く着替えて来い!」
「で?衛宮くんはどうして天井なんか睨んじゃってるのかしら?」
何故ならこのまま直視していたら理性崩壊決定&その後が怖いからだ。
っつーか、何て楽しそうなんだ。遠坂。
あかいあくまの微笑を顔に貼り付け、遠坂が四つん這いでにじり寄ってくる。
第二ボタンまでしか留めていないYシャツの胸元が、大きく開いた。
「―――ッ!頼むからボタンくらい留めてくれっ」
「あら、だって暑いんだもの。ここには士郎しかいないんだから、問題無いでしょ?」
「何を言ってるんだお前は……」
見てはいけないと分かっていても、天井を睨んだままのはずの視線が何故か時折胸元を捕らえる。
俺の目はいったいどうなってしまったんだ。
「ねぇ士郎、ついでに髪も乾かしてくれない?」
「はぁ!?」
動揺を隠したいが隠し切れない俺に、遠坂はそんな提案をしてきた。いつもなら居間で火照った体を冷ました後、洗面所に戻ってドライヤーで髪を乾かしているのに。
「ちょっと待ってて。ドライヤー取ってくるから」
優雅に立ち上がり、足取りも軽く居間を出ていく。必然的に、Yシャツの裾が翻った。
――――ふわり
見えた。
白い二つの膨らみ。その間に布切れの存在は確認できず!無意識に心の中で小さくガッツポーズを―――っていやいやいや、ちょっと待て!藤姉や桜がいつ来てもおかしくないこの家で、本当にアイツはYシャツだけで風呂場から出て来たっていうのか……何を考えてるんだ!
俺はいつの間にか正座になっていて、膝の上で拳を握り締めた。
「士郎お待たせー……って、どうしたの?険しい顔して」
遠坂は言いながら俺の前に背中を向けて、無防備に腰を下ろす。
「はい、ドライヤー。乾かし過ぎない様に気を付けてね」
見上げるように振り向くと、後ろ手にドライヤーを渡してくる。
「遠坂」
「? なぁに」
何を言われるのか全く分かっていないという顔。まったく、俺をからかう事以外にももうちょっと頭を回して欲しい。
「そんな格好で家の中をふらふらして、藤姉や桜が来たらどうするんだ」
「だって今日はもう二人とも帰った後じゃない」
「忘れ物をしたとか、急用が出来たとか、無い話じゃないだろ」
「そんなこと言ったら私の部屋や士郎の部屋以外で『スル』のも問題なんじゃ―――」
「わーっ!今はそんなことどうでもいいだろッ」
「―――なによ、自分のことは棚に上げて。いいから乾かして」
ドライヤーを俺に押しつけると、お姫様はふんっと前を向いてしまった。しまった。機嫌を損なわせるつもりじゃなかったのに……っていうか。弱いな、俺。
近くにあったコンセントにプラグを差し込むと、しばらく熱風を出して温度を確認してから遠坂の髪に当てる。
「熱くないか?」
「ん、大丈夫。根元を中心に乾かしてくれればいいから」
「分かった」
ドライヤーの音にかき消されながらも彼女の声を捕える。
目の前でペタンと女の子座りをしている遠坂の足は本当に綺麗で、膝立ちで上から見下ろす格好になってる俺の目には、揺れる黒髪の隙間からその白さが眩しい。
しかも、座布団の上に直接下ろしている腰の下には何も履いていないのを確認済みだ。
――――うわ、ヤバイ。
ドライヤーの音がうるさくてお互い無言になったのがいけない。
左手には水分を蓄えて指先を撫でていく絹のような黒髪。目からは露出の高い肌の白さだけが入ってくる。その上、さっき見えてしまったYシャツの下が否応無しに妄想を掻き立てている。
試しに目を瞑って作業に集中してみたが、見えていないと変な力が入ってしまいそうで無理だ。
ともかく、今は遠坂のこの綺麗な黒髪を傷付けたりしちゃいけない。遠坂のことだ、これだけ綺麗に伸ばす為に今までどれだけ手入れをして来たのか想像に固くないし。作業に集中すれば、さっき見てしまった光景も頭の隅へ追いやる事も出来るだろう。
足を見ないように後ろや横の下の方ばかりを乾かしていたのを、真上からにドライヤーの向きを変える。指で頭皮を優しく梳きながら、分け目の辺りを乾かし始めたその時―――
「―――っ!」
俺の目に飛び込んできたのは、第二ボタンまで開かれた白い谷間だった。
思わずドライヤーを止め、軽く後退る。
「? 士郎?」
全く分かっていないという顔で遠坂が振り向く。これは―――風呂から出てきた時点で誘ってくれているのだろうか。もうお互い何も知らない頃の二人じゃない。遠坂は分かっていない振りをして、本当は俺から手を出すのを待っていてくれているのだろうか。
ぐるぐると脳内が激しく稼動する。自分に都合のいい解釈しか思いつかない。
「もうちょっとなんだから、ちゃんと乾かしてよね」
そんな俺に本当に気付いていないのだろうか。それとも内心でこんな俺を笑っているんだろうか。再び遠坂は無防備に背中を向けてしまった。
今まで見ないようにしていた背中から腰に続くラインや、バスタオルを掛けた華奢な肩。Yシャツの裾で隠れてしまっている二つの膨らみに、足の裏までが脳髄を刺激してくる。
あぁもう……限界だ。
「遠坂の所為だからな」
言うなり俺は、後ろから遠坂を抱きしめていた。
「え?ちょっと、士郎?」
半乾きの髪に顔を埋めると、ずっと鼻をくすぐっていた甘い香りをより強く感じる。Yシャツ一枚しか纏っていないため、抱きしめた腕からは遠坂の体温が直接流れ込んでくるみたいだ。首筋に唇を落とすと、弱々しく遠坂が身動ぎした。
「士郎、どうしたの?」
「遠坂、黙って」
回していた手で顎を掴みこちらに向かせると、少し強引に唇を重ねる。
「―――んっ、む、ぁっ……ぅッ」
舌を捻じ込むと、遠坂はあっさりと俺を向かい入れてくれる。やっぱり誘っていたのだろうか。それならこちらとしては願ったりだ。その誘いに乗ってやろうじゃないか――――
唇を合わせたまま上から見えた膨らみに手を添える。本人は小さいと気にしているが、それは桜と比べるからであって、大き過ぎず小さ過ぎないこの手の平にフィットするサイズを、俺は結構気に入っている。
ぴくり、と遠坂の体が震えた。服の上から胸を撫でると、固くなり始めた先端が引っかかる。わざと指で引っ掛けながら何度も何度も優しく撫でていると、併せた唇から苦しそうな吐息が漏れ始めた。
「―――はっ、し…ろぉ」
唇を離し目を合わせると、切なそうな瞳が目の前で震えていた。
「遠坂――――」
引き寄せられるままに瞼に唇を落とす。そのままゆっくりと顎のラインをなぞり、首筋へ。もどかしくYシャツのボタンを全部外すと、案の定遠坂は下に何も付けていなかった。あの遠坂凛が俺のYシャツ一枚着て、家の中をうろうろしていたという事実が、改めて脳髄を熱くさせる。
「……ぁっ!」
露わになった胸元に舌を這わせる。弾力のある白い肌が舌を押し返す様な感触に何度溺れただろう。飽き足らずに何度も何度も舐め上げた。
「うっ…あ、はぁ……」
膝立ちのまま一身に愛撫を受けとめているからだろう。足が細かく震えている。その様子がたまらなく可愛くて、もっと遠坂を震わせてやりたくなる。
「あ、ああぁっ!」
固くしこった乳首を口に含むと、遠坂が耐え切れず嬌声を上げた。もっと声を聞かせて欲しくて、遠坂が喜ぶ様に舌を夢中で動かす。舐め上げ、吸って、転がす。優しく、優しく……。
遠坂は夢中になってくれてるのか、俺の頭を抱きしめて髪を掻き撫でている。短い髪をすり抜けて行く指の感触が気持ち良くて、もっともっと善がらせたい。
その衝動は俺の体を動かしていく。遠坂を支えていた片手を彼女の秘所に這わせた。
ぬるり――――
「ひっああぁ!」
「遠坂、すごい……」
軽く指を這わせただけで、そこの泥濘に囚われる。今までに無いほど濡れていた遠坂の割れ目からは、俺の指が動く度に新しい愛液がにじみ出てくる。
「うっ…は…っ……ん…」
溢れる愛液を潤滑油代わりにしてゆっくりと割れ目をなぞる。このまま押し倒してむしゃぶりつきたい衝動に駆られるがぐっと堪えた。もう抱いただけじゃ満足できない。この手で遠坂を溺れさせたい。
遠坂のもっとも敏感な部分と奥へ続く道には決して触れないように、ゆっくりと指を前後に動かした。然程しない内に、遠坂の腰がそれに合わせてゆっくりと震え出す。それは、本人の意思とは無関係の衝動。
「遠坂、腰が動いてる」
「っ!嘘ぉ……」
「奥も触って欲しいのか?」
遠坂の欲望を聞き出そうとしているが、本当に強欲なのは自分の方だ。最初はこの肌に触れただけで満足だった。あの遠坂が自分を受け入れてくれただけで満足だった。でも、遠坂と肌を重ねれば重ねるほど、どんどん自分の中で欲望は大きくなる。もっと鳴かせたい。もっと善がらせたい。もっと求めさせたい。俺のことを、望みが無いなんて言った奴は誰だったか――――
俺の質問に答える前に、遠坂はすっかり力が入らなくなってしまったらしく、俺の首に手を回して上半身を預けてきた。
「…うっ、あ、はぁっ……」
ふるふると体を震わせ、必死に快感を堪えている。
「遠坂、どうされたい?」
「はっ…しろぉ…お、お願いぃ……」
呆気なく欲望を口にする遠坂が可笑しくてたまらない。こんな姿、学校の誰が想像するだろう。
――――くちゅっ
「んんんんんッ!」
俺の肩に唇を押し付け、遠坂が一際高い声を上げた。突然中指を奥まで一気に入れ、同時に親指で陰核を押さえ付ければ当然か。そのままぐっちゃぐちゃと中を掻き回してやると、何度も体を硬直させ呼吸を乱していく。耳元で漏れる喘ぎ声がたまらなく可愛かった。
「遠坂、気持ちいいか?」
お互いまだこういう経験は浅い方と言っていいだろう。そもそもお互いしか知らないし。だから遠坂は自分から感じているのかとか、気持ちいいのかとか言ってくれない。感じる事自体に羞恥を感じている様にも思える。
でも、それじゃお互い楽しめないから。俺だけじゃなく、遠坂にも喜んで欲しいから。
肩に唇を押し付けたまま無言でコクコクと頷くのを感じ、それでもこちらが聞けば答えてくれるようになった彼女に愛おしさを感じた。
「……っぁ……」
指を抜くと、遠坂が名残惜しそうに声を漏らす。ちょっと待ってろ、このままじゃ辛いだろ。
俺は近くの座布団に手を伸ばし、遠坂の膝の下にあったのと二枚並べると、その上に遠坂を横にならせた。頭からお尻までは何とかなったが、足は畳みの上に投げ出されてしまう。まぁ、背中が保護できれば最悪問題無いだろう。
投げ出された両足の太腿を掴み、何も言わず割れ目に口付けた。
「ふああぁっ…!」
体を横に出来て少し落ちついていたのだろう。突如湧いた深い快感に遠坂が鳴く。溢れてくる愛液を舌で掬い、固く主張した陰核を吸い上げ、秘壺の入り口に舌を差し入れる。
毎回知っている知識を総動員して遠坂に挑んでいるつもりだが、最後に一番喜んでいるのは結局自分なのかも知れない。ジュルっと音を立てて愛液を飲み込めば、その甘美な毒に自らが追い詰められていく。遠坂の味が食道を通り、体の中から溶かされていく様だ。
ヒクヒクと痙攣する肉壁を見ていると、早く欲しいと急かされている気になってくる。俺ももう、限界だ――――
「遠坂、入れるぞ」
固くなった己を遠坂の入り口に押し当てると、その感触を感じてか遠坂が視線を合わせてきた。
「……うん。士郎、入れて」
――――ずっ
「あああああぁぁっ…!」
潤んだ瞳に心が鷲掴みにされたみたいだった。遠坂の視線に捕えられ、たった一言背中を押されただけで、俺の理性はあっという間に崩れ去ってしまった。遠坂を喜ばせたいなんて建前だと、自分の体が叫んでいる。綺麗事はお終いだ。自分の欲望を叩きつけろ、と。
遠坂の細い両足を抱き、乱暴に腰を打ちつけた。遠坂の嬌声に混じって、にっちゃにっちゃと厭らしい音が明るい居間に響いている。一瞬我に返って居間を見渡すと、そこには藤姉や桜の気配が残っている様だ。それがまた俺の興奮を高めていく。
「う…あぁ、し…士郎ぉ……」
苦しげに遠坂が呻き声を漏らす。すっかり肌蹴てしまったYシャツを握り締めると、遠坂の動きが軽く封じられる様だ。遠坂もそれを知ってか、中をきゅうきゅうと締め付けてくる。遠坂、動けないことに感じてるのか…?
「も…ダメぇっ!」
散々焦らした所為だろうか、遠坂が最初の絶頂を迎えようとしている。
その声まで全部欲しくて、俺は夢中で遠坂の口を塞いだ。
「むんんっ!んっ、んんんンんーーーーっっ!」
ビクビクビクっと体を痙攣させ、挿れてからさほどしてないのに、遠坂はあっけなく絶頂へと駆け上ってしまった。こっちにもキツい締め付けをなんとか耐える。せっかく遠坂が燃えてるんだ。こんなすぐに終ってたまるか。
「――――っは、はぁっ、はぁっ」
唇を離してやると、酸素を求めて遠坂の唇がパクパク動いた。半乾きの髪が汗で顔に張り付いている。脱力した白い肢体に黒の髪が酷く扇情的で、これ以上遠坂の回復を待つことなんて出来なかった。
俺は一度己を遠坂から抜くと、遠坂の体を起こして机に手を付けさせた。体に力が入らない彼女は、俺の意図に気付かないのか、為されるがままになっている。
肌蹴たYシャツが、するりと左肩を落ちた。その左肩にキツク吸いつくと、はぁっと艶かしい息を吐き、ヒクリと遠坂が反応する。そのまま、後ろから己をあてがうと、行き場を無くした愛液がつぅっと肉棒を伝っていった。
もう、俺はこの体に溺れている。
「あっ!士郎…わた、し……まだぁ…」
聞こえない。
遠坂の声を無視してズブズブと全てを埋め込む。相変わらず中は熱くて、まださっきの余韻が引かないのか、それとも再度訪れた快感が堪らないのか、遠坂の中がヒクヒクと痙攣している。
「あ、ああぁ…」
体の中の異物を確認していることを知らせるように、艶やかな声を響かせる。
その声を合図に、俺は後ろから猛然と腰を突き上げた。
「んっ、あっ、あっ、あぁぁ……っ!」
腰の動きに合わせて遠坂が声をあげる。それが嬉しくて、子供みたいに単純に、脳内が単一の事で染め上げられていく。
もっと、もっと、もっと――――
ガタガタと音を立てて揺れる机。もう中には何も入っていない湯のみが畳の上に落ちる。そんなのを冷静に見ている自分と、この体を動かしているのは全くの別人じゃなかろうか。あぁでも、そんなことはもうどうでもいい。腕に感じる柔らかさと、肉と肉の擦れる快感と、耳に響く嬌声と、それに時折俺の姿を確認しようと必死に振り向こうとする最愛の彼女の姿。今の俺にはそれが全てだ。
俺の腕の中で、もっと乱れろ――――遠坂。
「遠坂、遠坂……」
「う、あぁ……しろ…士郎ぉ!」
切羽詰った声。お互いの限界を悟って、俺は腰のスピードを上げていく。
ぐちゃぐちゃと胎内を掻き回せば、それに答えるように遠坂が激しく締めつけて来た。
「も…ぅ、だ、だめぇぇぇっっ!」
「……俺、も。とおさかぁっ!」
「ふっ、あぁああぁあああっ!!」
遠坂が再度駆け上るのを待って、俺は辛うじて残ってくれていた理性をフル稼働して自身を抜き去ると、肌蹴たYシャツにその欲望を解き放った。ボトボトと白い塊がYシャツに染みを作っていく。ぼんやりと頭の隅で、これもう一度洗わなくちゃなぁ…などと、こびり付いた主夫根性が冷静に呟いていた。
◆◆◆◆◆
「なぁ遠坂、もしかして誘ってたのか?」
「……なっ!」
腕の中でみるみる赤くなっていく愛しい彼女。そんな遠坂を見て、自然と俺の頬も綻んだ。夜を共にした後の遠坂は普段では考えられないほど素直で、その様子だけで図星だった事が伺える。
頭の中では、風呂から上がって鏡の前でYシャツだけを着て、くるくると自分の姿をチェックしている遠坂が浮かんでいる。完璧主義のコイツのことだ。どうしたら俺が反応するか、一生懸命考えてくれたに違いない。
「そ、そう言うことは気付いても言わないのがエチケットってものでしょう!」
デリカシーが無いんだから…とぶつぶつ文句を言いながら、ふんっと横を向いてしまうが、それでも俺の手を振り払う事はしない。
「いや、核心持てなかったからさ。でも嬉しかったよ。遠坂もそういう気分になる時があるって分かったからな」
「っ!人を淫乱みたいに言わないでよ!」
「なんでさ。女性にだって性欲はあるだろ」
「女の子はそういうの隠しておきたいものなのよーっ!」
がーっと噛み付いてきそうな勢いで遠坂が飛び掛ってくる。
「うん。でも、俺にだけは隠さないで欲しい」
両腕を掴んで動きを軽く封じて、俺の気持ちを正直に伝えた。普段はなかなか言えないし、言葉にするのが難しかったりするけど、自分の気持ちをちゃんと伝えられたなって時は遠坂は大人しくなる。俺はその様子を見て自分の気持ちが伝わったのを確信する。その瞬間が、とんでもなく嬉しい。
「―――士郎がそう言うなら、努力するわ」
真っ赤になって目を逸らしながら、小さい声で遠坂が呟いた。
「よろしく」
胸元に遠坂を抱き寄せて、その体温に酔う。やっぱり無防備に預けられた重さに、いっぱいの幸せを感じて――――
◆◆◆◆◆
「何よコレーーーーーーっ!」
朝食の支度をしていると、洗面所から聞こえてきたのは愛しい彼女の悲鳴…もとい、絶叫。どかどかと廊下をこちらに向かって近づいて来る足音は、怪獣さながらである。
「昨日半乾きのままだったから、髪がボッサボサじゃなーい!どうしてくれるのよぉっ!」
パァン!と勢い良く開け放たれた障子の向こう。普段は絶対に見られない、寝癖のついた遠坂が朝日を浴びて仁王立ちしていた。うあ、すっごい迫力だ。
「おはよう遠坂。今日は目覚めがいいみたいだな」
「そんな笑顔全開で挨拶されたって誤魔化されないんだからっ」
遠坂がいて俺がいて。衛宮家は今日も平和だ。
- fin. -